はじめに
例えば金融機関との取引(預貯金の引き出し等)や不動産売買などにおいて、預貯金者や売買の当事者に判断能力の低下や認知症発症が見られたとき、金融機関や不動産業者等から後見制度の利用を勧められます。(後見人を付けなければ預貯金は下ろせない、不動産取引ができないと言われます。)しかしながら、すべての場合に必ず「後見」の申し立てをしなければならないことはありません。「補佐」が妥当な場合や、「補助」でよいケースもあります。
また、「後見」は高齢者に限ったことではありません。障がい者に対しても、「親なき後の問題」として大変重要なキーワードです。
成年後見制度の概要
成年後見制度は平成12年(2000年)4月に従来の「禁治産・準禁治産制度」を改正して導入されました。概要は、精神上の障害(認知症、知的障害、精神障害など)により判断能力が不十分なため意思決定をすることが困難な人について、その判断能力を補う制度です。
成年後見には法定後見と任意後見があり、法定後見は判断能力の程度に応じ「後見」「保佐」「補助」の三つに分かれます。法定後見の場合は、親族等が裁判所に利用を申し立て、裁判所により選任された後見人等が付きます。
(家庭裁判所のパンフレットより)
|
後見 |
保佐 |
補助 |
対象となる人 |
判断能力が全くない人 |
判断能力が著しく不十分な人 |
判断能力が不十分な人 |
成年後見人等が同意、又は取り消すことができる行為(*1) |
原則、すべての法律行為 |
借金や相続の承認など、民法13条1項記載の行為のほか、申し立てにより裁判所が定める行為 |
申し立てにより裁判所が定める行為(*2) |
成年後見人等が代理することができる行為(*3) |
原則、すべての法律行為 |
申し立てにより裁判所が定める行為 |
申し立てにより裁判所が定める行為 |
(*1)日用品の購入など、日常生活に関する行為については取り消すことはできない。
(*2)借金や相続の承認など、民法13条1項記載の行為の一部に限定。
(*3)居住用不動産の処分については家庭裁判所の許可が必要。
任意後見制度とは
法定後見と同時に導入された制度で、簡単に言うと、将来、判断能力が衰えたときには、自分に代わって法律行為をやってくださいね、という契約を、正常な判断ができるときに、依頼する人と頼まれる人との間で結んでおく制度です。この契約は公証人が作成する公正証書によらなければなりません。
また、任意後見には、法定後見のような「後見」「補助」「保佐」という類型はありません。
留意点
法定後見の場合、後見人等は裁判所が選任するので、本人や家族が全く知らない弁護士や司法書士、あるいは社会福祉士などの専門職が就任するケースが多いです。しかしながら、任意後見の場合は、本人に正常な判断ができるうちに契約で後見人を決めますので、本人や家族が良く知った人物を後見人にすることができます。また、後見人等は本人(被後見人等)の権利擁護(利益)を第一に考えますので、家族がああしたい、こうしたいと思っても、特に法定後見の場合はすべて家庭裁判所が選んだ後見人等の判断に従うことになりますので、“親族の想い”などは度外視されます。
任意後見の場合、契約により家族が後見人になることも可能ですが、後見を開始するにあたっては家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てなければなりません。後見人が、本来の後見業務を正しく行っているかチェックする人が任意後見監督人です。つまり、契約によって誰でも後見人になれる代わりに、後見人が適正に職務を履行するよう第三者の目を付けますよ、という仕組みになっています。
当事務所代表は後見人相談士Ⓡ(一般社団法人後見の杜認定)として、一般社団法人後見の杜が有する後見に関する様々なノウハウを提供することができます。